ランキン過去レビュー一挙掲載
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原題:黒と青 BLACK AND BLUE
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ミステリ 1998年7月31日発行
価格:本体1800円+税
極私的評価:★★★★
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本邦初登場となったスコットランド警察のリーバス警部の記念碑的作品。現地での出版順は『血の流れるままに』に続くわけで、相変わらずのペシミストぶりがエジンバラの暗鬱さに拍車を掛けてくれ、我々ひねくれミステリ読みには絶好のスパイスになっているのだな。三冊続け読み。こうなると立派なリーバス・マニアである。スコットランド警察でも天然記念物みたいな刑事。決して無能ではないが、スーパー推理を働かせるわけでもなく、地を這うような捜査こそが彼の答えなのだ。フィクションの中でのリアリズムの追求。そんでもって、リーバスが周囲をうんざりさせればさせるほどますます四面楚歌状態に陥るわけで、一点突破の力任せで八方破れ捜査方法に何とまあと驚き呆れるながらも、いいぞ、行け行けと嗾けながら読み進むって寸法だ(^_^;)。こういうキャラを作り上げたランキンのお手柄でですな。
人間関係のリアリズム。歪みっぱなしの警察機構を歪みすぎて真っ直ぐに戻っちゃった感じのリーバスが引っかき回す快感(^_^;)。こういうひねくれ人間キャラの作り込みはさすが英国人作家であるね。奥が深い。心の闇の部分をジェントルな物腰の奥に秘めた陰湿さは一筋縄ではいかない男たちの証。オブラートでくるまれた部分を一枚一枚リーバスがはがして白日の下に晒す。警察官僚どもを敵に回しつつも猟犬たり得るには、一匹狼的設定が不可欠だもんね。ランキン自身の思惑以上に暴走するリーバスが引きずり出すもう一つの真実の裏側。次から次とヤマの連続で毎度ながらのモジュラー型が警察小説には一番しっくりくるように思うのだ。これだけ殺伐とした物語なのに米国ほど拳銃が使われないのもなかなかよろしい。拳銃=短絡的ではないけれど、犯罪にも一種グレードがあるもの。
他二冊よりも本作がリードしている部分は、実在の『バイブル・ジョン』を題材にツイストして複合的な面白さを追求してるからに他ならない。曲者ランキンが作り上げたジョニー・バイブルと本家バイブル・ジョン&リーバスの巴戦となった息詰まる追跡劇は本編の白眉でもある。誰に軍配が上がったかは未読の方にはお教え出来ないが、思わずニヤリのラストシーンである。三作とも共通するテイストは、曖昧なものは曖昧なままに。スカッと解決する事件なんてものはそうそうありはしないんだよっていうほろ苦さが、米国流ガンクレージーな決着に慣れ親しんだ読者には逆に心地良かったりするのだ。『黒と青』はリーバスの顔色そのままでした(^_^;)。(2000年4月読了)
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原題:首吊りの庭 THE HANGING GARDEN
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ミステリ 1999年12月15日発行
価格:本体1600円+税
極私的評価:★★★3/4
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図書館から借りてる関係で仕方なく『黒と青』を飛び越してこっちに来ました。う~ん、人事異動で登場人物のポストが微妙に変化してるのが気に障る程度。相変わらず、リーバスは警察内での後ろ指され隊っぽいポジションで読者の苦笑を誘うのだ(^_^;)。ちょっかい出された特捜班じゃないけれど、まあ、これだけ性格悪けりゃ嫌われるわな。そう納得させちゃうランキンの筆の冴え。今回もタイトルから類推できるように、モジュラー式に次々降りかかる事件もぜ~んぶ最後まで決着付けましょうって感じ。一人娘のサミーにまで襲いかかった悲劇。復讐心に燃えるリーバス警部はどこまで突っ走るのか。この男のメンタリティなら警官より父親の取るべき行動を優先させるだろうことは想像に難くない。
『首吊りの庭』ってタイトルから連想させる登場人物の事件への関わり方が無理矢理っぽかったのがマイナスだな。歴史の闇に潜む底知れぬ謎をリーバスに捜査させる必然性もさほど感じず、『ヤクザ』絡みの組織犯罪もチンピラ同士の抗争に毛が生えた程度だし、ランキン言うところの『ソウカイヤ』ってそんな地位が高かったっけ(^_^;)。ま、小指の欠けたクリカラモンモン見たら、そりゃスコットランドの警官じゃなくても吃驚するわな。聞きかじりで書いちゃったランキンいじめはこのぐらいにして、本作で評価されるのは揺れ動く父親と警官であることの狭間で苦悩するリーバスの人間像が掘り下げられたことでありましょう。相変わらずロックに逃避もしくは耽溺してるけど…(^_^;)。
意外に知られていないけれど、スコットランドでの殺人事件発生率がロンドンのそれを遙かに上回るって事実。殺伐とした世相を安易に反映した作品に貶めていないのは、一種モラトリアム人間であるリーバス警部の韜晦に満ちたユーモア感覚とサブキャラの隠し味が効いてることですかね。シボーン嬢の携帯カイロの件なんてクスクス笑わせてくれて、グロテスクな事件の緩衝剤にはピッタシだもの。ランキンが選んだヤクザの苗字が『マツモト』って言うのも、彼が唯一読んだ日本産ミステリの作家から頂いたってのが妙に可笑しいぞ。松本清張もあの世で苦笑してるに違いない(^_^;)。(2000年4月読了)
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原題:血の流れるままに LET IT BLEED
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ミステリ 1999年4月30日発行
価格:本体1400円+税
極私的評価:★★★
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スコットランドのエジンバラの町には強面の警部殿がうまいこと棲み分けているようで、数々の難事件でもバッティングすることもなくそれぞれ迫真の警察小説に仕上がっているわけだ。言わずもがなのジャーディン『スキナー・シリーズ』に対比される、イアン・ランキンが生み出したリーバス警部の屈折ぶりが本シリーズの売りではあるね(^_^;)。一匹狼にしてへそ曲がりで大いなる頑固一徹。スキナーが剛球一直線のオーバーハンド・ピッチャーなら、リーバスはさしずめキャッチャー泣かせのナックル・ボーラーなのであります。早川書房の訳分からん仕打ちで出版順序を入れ違えている『黒と青』を後回しにして、しっかり本書から読み始めたのですが、各々独立している作品なので登場人物の変遷を辿れるってだけで、さほど目くじら立てなくても後に続く方はどれから読んでもOKのようですな。と思っていたら、やっぱし順番通りに読んだ方がいいよってな展開が、後回しにしてた『黒と青』の方に出て来てしまったなあ(^_^;)。いやはや。
リーバスを巡る人間関係に思わずニヤリとさせられてしまうのは、一匹狼も所詮は雇われ公務員である警察官である限りは、いけ好かなくて無能で汚職まみれの上司が「こう」と言ったことは「こう」としなくてはならないところでありますな。愚痴をこぼしつつ好きな音楽に逃避するリーバスに「うんうん」と感情移入して読んでしまうのは、中年ミステリ愛好家の悲しい性なのでありますぞ(^_^;)。ま、そこから権謀術数乗り越えて一匹狼らしく噛みついていく様は、フリーマントルのチャーリー・マフィンと相通ずる曲者らしい反撃ぶりで喝采を送ってしまうのだ。ちょいと生臭すぎる描写も警官たちの生活臭がそこまで匂い立つようで、そこはそれ、哀愁の町エジンバラにしっくり来るリアリティ溢れる街の裏側を垣間見せてくれるのだ。本当、リーバスには陽光燦々より陰鬱なスコットランドの曇りのち雨の風土がピッタリですな。
タイトルそのまま。事件は解決らしき様相を見せつつも血の流れるまま終結いたしましたが、読んでいて欲求不満が募るのも事実。もっとすっきり決着付けてよって文句の一つも付けたくなるよねえ。政治的決着に流され曖昧なままに着地してしまった部分は、大いなる矛盾に満ちたこの世の中は小説の中も同じさっていうランキンのほろ苦いメッセージと読めないこともないね(^_^;)。個人的には最終章は無い方がすっきり余韻を残して、よりほろ苦さを強調するようにも思えるけど、さて既読の方はどう思われたでしょうか。(2000年4月読了)
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題名:死せる魂 DEAD SOULS
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ポケミス 2000年9月30日発行
価格:本体1800円+税
極私的評価:★★★1/2
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いわゆるモジュラー型警察小説に英国風陰鬱さをミックスして今風のロック・テイストをスパイスにしてアレンジすると、こういう複雑に入り組んだ通好みのミステリが産み落とされるわけで、今更言うまでもないけれど、米国流な派手なドンパチもないし、灰色の脳細胞をフル回転させて安楽椅子しちゃう探偵もいないのであるな。足で稼ぐ刑事ドラマ=地を這う捜査ぶりを描き出すにはこれだけのページ数が必要だってこと。それでも年々分厚くなるランキンの新作ではあるけれど(^_^;)。タイトルからも分かるように今回のリーバスは、過去の亡霊たちに悩まされる相変わらずの重苦しさで引っ張る部分と、アメリカから帰郷した連続殺人犯との対決部分が上手い具合に結合して読ませるって寸法だ。英国vs米国。異分子が混入したエジンバラの困惑ぶりが、なかなか一筋縄ではいかない犯罪者との駆け引きと相まって、リーバスのアウトサイダーぶりを引き出す要因となっており、マンネリを防ぐ意味でも、ランキンのテクが冴えるシリーズ最新作に仕上がってると言っておこうか。
現実の事件を換骨奪胎リーバスものに巧みに取り入れるランキンの小説作法はアップトゥデートでもあり同時に旬を過ぎると一気に鮮度が落ちてしまう危険性を含んでいるけれど、キャラが立ってるおかげで長持ちするシリーズになりそうではあります。『87分署』までとは言いませんが、ランキンがリーバスに飽きちゃうまで続けて欲しいものでありますなあ。最近ではシボーン・クラークだっていい味出してるようにワシは思うのだけれど、レギュラー陣の分厚い背景が必要不可欠ゆえ、あれこれエピソードを挟み込むにはやっぱりこの厚さは必要だわな。おっと忘れちゃいけない、殺人鬼オークスのキャラの殺人者としての質実剛健さ(^_^;)。これだけで★1/2上げちゃおう。冒頭事件の解決を最近はやりの犯罪形態(^_^;)で安易に流しちゃうのは頂けないけれど、実際問題として『それ』が万国共通の根深い犯罪であることも考慮すれば納得出来なくもないか。でも最近この手の解決作品が結構多いのが気に掛かるねえ。
英国ではTV作品化されて日本でもミステリChでよく放映されているのですが、リーバス警部役って、『ハムナプトラ』のジョン・ハナーなんですよね。個人的にはちょいと線が細すぎる様な気がしてあまり見てはいないのよね。本書も映像化されるらしいので、どうしても見てみたい方はスカパー入ってミステリChでじっくり眺めてみるのもいいかもしれません。主人公はともかく、あの陰鬱なスコットランドの雰囲気がよく出ていて作品のテイストは多少なりとも味わえますぞ。次回作は梅雨入り前に『Set in Darkness』が出る予定だそうで、次なるリーバスの地味めな活躍(^_^;)を期待して待ちましょうかね。(2001年2月読了)
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題名:滝 THE FALLS
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ミステリ 2002年3月31日発行
価格:本体1900円+税
極私的評価:★★★1/2
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何だか味も素っ気もないタイトルだけれど、一応、ニュージーランドのバンドの曲名に引っ掛けたものらしい。『黒と青』なんかに比べるとちょっとマイナーすぎてピンと来ませんなあ(^_^;)。ただ『滝』って言葉にはいろいろと意味深な部分が顔を覗かせて、ランキンらしいこだわりが本書の読みどころでもある。黄昏れちゃてる老境のリーバスvs冷酷無比なクイズマスターってことになるんだろうけれど、先発リーバスはコントロール定まらず早々に降板、リリーフ役のシボーン・クラークがヴァーチャルな活躍をするのである。リアルタイムに進行する物語の黄昏度が一定の読者層にとってはちょいと痛々しいけれど、ポケミス読者は否応なしにリーバスと一緒にじじいになって行くのだな(^_^;)。
あと何作もリーバスものは書けないとランキンも考えているのであろう。署内のリーバスの地位も不安定なものだし、それを支える恋人の存在ってのが一匹狼らしくなく、揺れ動く心理描写にも突っかえ棒が出来て実は底辺に漂う安定感が、タイトルの変化にも見えるランキンの一種閉塞感をもたらしているのかもしれません。クイズ・マスターなんぞを登場させるなど大昔の棺桶やら猟奇色を前面に出して、語り口にも工夫を凝らしたのはマンネリ打破への作者の苦労の現れと読んでもいいかも(^_^;)。そっち方面で活躍するのはシボーンだってのにも苦笑しちゃうけれど…ま、キャラがそれぞれ脇役にもしっかり立ってるのに好感が持てるね。
総デジタル化時代にアナログの典型デカ=リーバスってのが烏賊にも章魚にもってぐらい面白いが、やがて哀しきはシリーズものであるなあ。フリーマントルのチャーリー・マフィンと一緒で如何にサバイバルして行くかが読ませどころになってしまうサブストーリーの方がメインになったりしないで欲しいぞ(^_^;)。突っ張り中年リーバスの哀愁漂う背中に出世街道に無縁の世のサラリーマン諸子も陰ならぬ応援をしているはず。このままフェイドアウトせず、年金なんか糞食らえ!鯉の滝昇りよろしくもう一花咲かせる予感を残しつつ退場するリーバスにカーテンコールはまだ早い。次作に期待しよう。しっかし、ポケミスで1900円は烏賊にも章魚にも高いぞ。プンプン。(2002年3月読了)
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題名:甦る男 RESURRECTION MEN
著者:イアン・ランキン
訳者:延原泰子
出版:ハヤカワ・ミステリ 2003年4月15日発行
価格:本体1800円+税
極私的評価:★★★★
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若造には分かるまい。人生の黄昏期に差し掛かってるオジさんオバさんにこそお勧めしたい。人事異動の張り紙を人の背中越しに見る悲哀ってのを噛み締めてる中間管理職未満の窓際世代に共感の嵐を呼ぶ(^_^;)我らがヒーロー、ジョン・リーバスは相変わらずリーバスしてるし、シボーン・クラークがすっかり部長刑事らしく新人クンをしごきまくるのがよろしい。英国風オヤジギャルって雰囲気が妙にしっくり…なんせスコットランドのサッカーチームの立派なサポーターだもんね>シボーンってば。リーバスに薫陶され見事にミニ・リーバス化した刑事的手練の冴えは、今後、ランキンの頭の中のストーリーボードでさらに大きくなるのは確実。男女の関係ではなく確実に同士として機能してる二人の関係が実にデカしてるのよね~(^_^;)。
はみ出しオジさん刑事連中が施設に入れられて再教育されるなんてオモロ過ぎるじゃん。その裏に隠された混沌にリーバスを放り込むランキンの企み。その辺が仄見えてくる頃からヒートアップしてくるスコットランド犯罪ジグソーパズル。派手なアクションはないけれど、熾き火のようにじわじわと燃え上がり炙り出されるコアの部分が、英国風スルメ・ミステリって感じで(噛めば噛むほど味わい深い)、いつもながらランキン上手いよな~と感心してしまう仕上がりのディープさ。英国では出版即ミステリ部門売り上げNO1だってのが素直に頷けてしまう。ヤンキーどもには分かって貰わなくてもOKさってスタンスが心地よい。
早川書房もこの作家大事にしてるなあと思うのは、変に色気出してハードカバーで売り出そうとしたことが一度もない点かな。ポケミスがこの作家の日本での原点。早川の原点もポケミス。昔っからのミステリファンの原点もまたポケミス。1953年スタートで今年が50周年だそうですが、P・D・ジェイムスやらポーラ・ゴズリング、スティーブ・グリーンリーフらポケミス作家の中核を成すランキンには地味に売れ続けて欲しいものであるなあ。あくまで地味に=作風を変えることなしに、遠くスコットランドの地からリーバス・ストーリーを発信し続けて欲しいと願わずにはいられない。
ところで、クエンティン・ジャーディーンの『スキナー』シリーズはその後、一体どうなっておるのか。同じモジュラー型警察ミステリの傑作シリーズを遺棄したまま放置プレーしてる創元推理文庫の編集者諸君。サボってないでなんとか4作目以降を出してくれたまえ。心ある読者は待ってるのだよ。(2003年6月読了)

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